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横浜地方裁判所 昭和61年(わ)883号 判決

本籍

東京都葛飾区東金町五丁目六九一番地

住居

同都同区東金町五丁目七番六号

会社役員

矢部重雄

昭和一〇年一二月一四生

右の者に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺坂衛出席の上審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金六三〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都葛飾区東金町五丁目七番六号に居住し、株式会社矢部水道の名称で管工事業を営む者であるが、小島葵、世俵利美、二宮啓と共謀の上、被告人の実父の矢部和太郎の死亡により同人の財産を相続したことに伴う被告人の相続税について、架空債務を計上して課税価格を減少させる等の方法により相続税を免れようと企て、昭和六〇年六月二〇日、同区立石六丁目一番三号所在の所轄葛飾税務署において、同税務署長に対し、被告人の正規の相続税課税価格は一一億三四七七万七〇〇〇円で、相続人全員の正規の相続税課税価格総額に占める割合は約〇・七であったにもかかわらず、右矢部和太郎には甘利宇洲根に対する三億円の債務があり、これを被告人において全額負担することが確定したので、取得財産の価格からこれを控除すると被告人の相続税課税価格は五億一五〇一万一〇〇〇円で、相続人全員の相続税課税価格総額に占める割合〇・三九にすぎず、遺産にかかる基礎控除額を控除して算出すると被告人の相続税額は三億三六六万八八〇〇円である旨の虚偽の相続申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人の正規の相続税額六億九六九九万七三〇〇円と右申告税額との差額三億九三三二万五〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  分離前の相被告人小島葵、同世俵利美、同二宮啓の当公判廷(第七回公判)における各供述

一  被告人の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  小島葵(四通)、二宮啓(二通)、世俵利美(二通)、矢部文雄の検察官に対する各供述調書

一  矢部ちよ(二通)、鈴木静子、佐藤邦郎(二通)、岩城守一(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官各作成の土地調査書二通、建物調査書、預貯金調査書、出資金調査書、建物更生共済積立金調査書、未払金調査書二通、預り金調査書、租税公課調査書

一  大蔵事務官中塚純夫作成の昭和六〇年七月三〇日付領置てん末書

一  押収してある相続税の申告書控一綴(昭和六〇年押第七二六号の一四)、相続税の申告書綴一綴(同号の一五)、遺産分割協議書写一冊(同号の一六)、預金通帳一冊(同号の一七)

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法六〇条、相続税法六八条一項に該当するので、所定の懲役と罰金を併科し、情状により同法六八条二項を適用することとし、その所定刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役一年及び罰金六三〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官裁判長 上田耕生 裁判官 白神文弘 裁判官 坂本宗一)

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